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2010年8月12日 (木)

CB-750F / ある深夜の国道X号線 3つの誤算

 オレはスロットルを全開にしていた。バックミラーを見なくてもハイビームのライトが迫って来るのがわかった。
 
 
 
198X年某月某日

 オレは愛車 ガンメタリックの HONDA CB-750F で 帰路に着いていた。深夜の都内の走り慣れたいつものルートだ。

 コンピュータ制御の信号機は交通量の少ない深夜にはタイミングがパターン化してしまう。
もちろんこの国道X号線のパターンは覚えている。スタートして このくらいのスピードならいくつもの信号は 青 が続く。直線で数百mに及ぶ。その先はオーバーパスを越えてさらに直線が続く。
 一気に駆け抜けた事は ない。制限速度は 当然 時速 50km。 事と次第によっては、3度目でようやく手にした自動二輪限定解除の免許証の一発取り消しだけでは済むまい。
 
 
 
 オレのバイクは当然のように 停止線の最前列でシグナルグリーンを待っている。
後続車輌が、オレのバイクの直後にゆっくりと そしてピッタリと貼り付いてきた。断っておくがオレのレーンは追い越し車線ではない。先を急ぐなら右車線が開いているのだが。

スロットルを握って軽い前傾姿勢を取ったままのオレは、バックミラーで反射的に後続車輌の助手席をも確認する。前席に2人。要注意だ。ヘルメットは被っていない。交機(交通機動隊)ではない。覆面でもないらしい。
ならば、前方のレーダーに注意しながら普通に走るだけだ。

 下に河川を跨いでいる国道X号線のこのエリアはもしかすると所轄が変わるのかも知れない。

さらに。

左側に車輌を停止させるスペースの無いこのルートでレーダーを見た事は ない。
 
 
 後ろは トヨタの ソアラ だった。おそらくはツインターボ。車高が低い。もちろん手を入れているハズだ。排気音を聞くまでもない。

横に並んだらシグナルグランプリ。挨拶代わりの比較的軽いノリだ。
だが、件のソアラはオレのバイクの直後に貼り付いてきた。さらにアクセルで煽っている。珍しいヤツだ。
 
 パワーウェイトレシオ というモノを知らないのか? あまりオツムは良くないらしい。
いかに3リッターのツインターボとはいえ、スタートダッシュで 四輪車がツインカムのナナハンに勝てるワケがない。それどころか ツインとはいえ オートマチックミッションのターボエンジンが災いして後ろについてくる事すら不可能だろう。
バブリーなゴージャス路線の中で生まれた 2ドア クーペ スタイルの ソアラ のミッションは、ほとんどがオートマチックだ。オレはオートマチック車で空吹かしするヤツの気が知れない。

 オレはクラッチレバーを握ってシフトペダルをニュートラルに蹴り込んだ。いつものようにゆっくりと身体を起こして両腕を組んだ。信号待ちの体制。オレはまだ若かったが、勝つと決まった勝負にアツくなるほど血の気は多くはなかった。
 
 
 オレの意に反して後ろのソアラはやる気満々だった。 オレの体制を見てもまだ煽っている。オレは皮ツナギを着ていた。安全性を重視しての事だ。しかし後ろからオレとオレのナナハンを見たなら、挑戦したくなるかもしれなかった。
オレのナナハンは、ノーマルならマフラーは左右に1本づつ見えるハズだが、右に1本の集合管だった。ノーマルでは ない。
 
 
 交叉する道路のシグナルはイエローに変わった。 オレはまだ動かない。後ろの トヨタ ソアラはジリジリと間を詰めてきていた。交叉する信号はイエローからレッドに変わる。 ゆっくりと組んでいた両腕を解き、姿勢を前傾させながらオレはハンドルに手を掛け クラッチレバーを握ると同時にシフトペダルを1速に蹴った。まさにその瞬間に正面のシグナルがグリーンに変わった。
 
 
 
 深夜の国道X号線にスキール音が響き渡る。ガンメタリックの CB-750F は 後輪を鳴らす事もなく ましてや前輪を浮かせたりはしない。しかし鋭く力強く加速してゆく。この並列4気筒ツインカムエンジンは トルクも充分だ。 メーターをレッドゾーンに入れるほど無知ではなく、またその必要もない。
オレはクラッチレバーを左指2本で切る。と同時に左のつま先でシフトペダルを2速に蹴り上げる。

オレのCB-750Fの ヨシムラ サイクロン は スロットルに合わせて咆哮する。
 
 
3速。 すでにスピードメーターはとんでもない数字を指している。TOYOTA SOARA が自慢のツインカムツインターボをいかようにチューンしようとも、本気で加速するナナハンについて来られるハズはなかった。 
 
しかし思ったほど後ろを引き離してはいない。ひとつめの誤算は、ヤツがマニュアルミッションであった事だ。少々面倒な事になった。
 
 
そしてふたつめの誤算は、このスピードでこのルートを走るのは未体験であった事だ。

 通常の国道では深夜でも一気にここまで長くは走れない。シグナルレッドに引っかかりバトルは終了だ。だが、この日は違ってしまった。

全開で加速するオレにまるで道を開けてくれるかのように、次々にシグナルはグリーンに変わってゆく。

シフトペダルを4速に蹴り上げる。 オーバーパスは大きな河川を跨いでいるせいか非常に長い。不利なギア比で長い登りに差し掛かる。
 
 オレはスロットルを全開にしていた。バックミラーを見なくてもハイビームのライトが迫って来るのがわかった。
 
 
ここから先のスピードでは四輪車が絶対的に有利だ。
 
 
 
 オレは過去にこの愛車と筑波サーキットを走っていたが、既に このストレートは経験のないほど長い。 
 
 
【未体験ゾーンへ】

ソアラ のキャッチコピーだ。 後ろの ソアラ はオーナーでもないオレを未体験ゾーンへ連れていってくれるらしい。皮肉な事だ。 
 
 
オーバーパスを登り続ける。スピードメーターの MAX まであとX0km

すでにハンドルに振動が出始めていた。愛車は限界が近い事をオレに知らせている。悪い事にこの態勢でオーバーパスの頂点を迎える。

このスピードではオーバーパスはジャンプ台に近い。280kg以上ある車体は慣性の法則にしたがって浮かび上がろうとする。前輪はおろか後輪も接地ギリギリながらやや浮き上がり加減になる。後輪のトラクションが行き場を失ない エンジンが一瞬カン高く吠える。

 ここで慌ててスロットルを戻したら全てが終りだ。右手は戻さずに全開のまま駆け抜ける。

下りのせいでハンドルの振動はかなり激しくなっている。すでにマトモに真っ直ぐ走ってはいない。しかし急激にスロットルを戻す事はフロントタイヤのグリップを失う可能性が高い事を意味する。 このスピードでは命の保証はない。
 
 
 
遥か後方に置いてきたハズの後続車輌との距離はもう50mも切っているようだ。

右のつま先でリアブレーキを当てながら 少しづつ慎重にスロットルを戻す。ハンドルの振動はますます大きくなり まさに【未体験ゾーン】だ。 全く皮肉な事だ。 ハンドルを両腕で前方へ強く圧しながら慎重にスロットルを戻してゆく。ハンドルの振動は収める事が出来た。

ヘッドライトでオレを威嚇しながら遂に後ろから追いついてきたソアラはオレの後ろに張りつき、そして一息ついて 右にレーンチェンジしながらさらに加速してゆく。
 
 国道X号線を180km以上で走り去る車を初めてみた。
 
 
 これはオレの遠い記憶。
 
 
 
…思えば私は 既にこの頃から一世代前のモデルに心を惹かれる事が多かった。最も愛した CB-750-F Bタイプ は既に現役ではなかった。
初めて憧れたバイク Z-400-FX も その時すでに現役を引退していたハズだ。
中型免許を取る前に買ってしまった CB-400 Four はもっと過去の名車であった。

旧いモノに憧れるのか?
旧ければ良いというワケではない。良いモノはずっと使い続けられるのだ。
いつまでも使い続けたい と思わせるモノが本当に良いモノなのだ。
 
 
 プロダクト には、マイナーチェンジやモデルチェンジをしながら 時折 名品が生まれる。創り手の思惑通りには必ずしも生まれない名品達。
 
 
 
 プロダクトとそれに関わるプロから学んだひとつの教訓がある。

 メーカーはプロフェッショナルが実に様々な事を考え尽くして製品を送り出す。
その製品に素人が安易な改造を施すと必ず改悪となる。
自分では安易にいじらない方が良い。

厳しく言われた。

抵抗もしてみた。
だが、ことごとく彼の言うとおりだった。

ちなみに、オレのナナハン のハンドルの振動は メーカーがユーザーに向けた警告であり、メーカーの誠意でもあるのだ。

 当時の大型バイクは、エンジンが大きくて重く、それを抱えるフレームは剛性が足りなかった。バランスは現在の【当たり前】のレベルと比較すると著しく悪い。マイナーチェンジで一部太くなっていったが、まだまだ足りない。全く発想が違うくらいに。
限界ギリギリまで各所のレベルを上げると、いきなり破綻してしまう。
(レベルこそ違うが現在の製品でも同じ)

未熟なユーザーには制御できない。
これ以上はキケンだぜ と警告が出る。マージンを取ってあるのだ。
それらの配慮は様々なところに埋め込まれているのだ。

私は【治す】側にいる人間だ。対象は万年筆でもバイクでもないが。
ユーザーの誤った処置(思い違いや意欲的過ぎる対処も含めて)で遠回りしているケースは実は非常に多い。
 
 
 
困ったらまずプロのアドバイスを一度【受け入れる】事をおすすめする。

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